カクヨムにて連載中!
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本作は「和風ハイファンタジークライムサスペンス時代小説」となっております。
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タイトル二藍
タイトル枯草
タイトル丁字染
タイトル縹
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タイトル紅梅
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タイトル鉛丹
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タイトル青鈍
タイトル露草

タイトル:九番目の貴方へ

衝撃の和風ファンタジー小説がカクヨムに登場予定!

あらすじ

裏社会で密やかに流れる噂があった。とある「宝玉」を持ってきた者に狐族が一億円の報奨金を出すというのだ。大国の国家予算に匹敵する額を前に犯罪組織が蠢き始める。港湾都市「碧浜」の組織は宝玉を手にするため、構成員に宝玉を必ず手に入れるよう命令を下す。一方でその命令を受けた狼族の枯草は宝玉を持ち逃げして、故郷を再興することを目論んでいた。それぞれの思惑が絡み合う中「宝玉」を手にするのは誰だ。

 この作品は当時の文化水準に基づき執筆されており、特定の民族性別思想を貶める意図はありません。また日本語への翻訳にあたり、分かりやすいよう意訳されている部分があります。
        
序章 貴方を愛しているから
        
 この国は滅亡に瀕している。
 何を馬鹿な、と思うだろうか。
 八大知的種族のうち七種が参加した先の大戦で煌土こうど国は戦勝国に名を連ねた。多くの尊い犠牲があったが、未来は明るい。多くの国民がそう信じている。だがそれはまやかしだ。
 政治家は腐敗し、国民は愚かで救いようがない。敗戦国から賠償金を受け取れるかは分からず、国庫は戦時発行した国債に圧迫されている。一方で大企業群は戦時中ですら帳簿上の利益を制限し、税金を支払わないように立ち回った。戦時だからと人件費を切り下げ、戦後十年が経とうとしている現在でも、平均給与は戦前の水準に達していない。
 今後五年、十年のうちに決定的な破滅が訪れることはないだろう。だが、五十年百年先を見れば確実な破滅が待ち受けている。国はそんな緩慢な死を迎えようとしている。
 結局のところ、この国の民に民主主義はまだ早すぎた。あるいは幕府は初めから本当の意味で国民に手綱を渡す気などなかったのだ。
 将軍こそ実権を失ったものの、旧大名たちは上院議会に議席を約束されている。便宜上、上院と下院は対等であるとされるが、下院議会には多数の大名の一族が潜り込んでおり、その実態は上院で決まった法案を承認するだけの組織だ。
 煌土国の最高意思決定者である大統領を指名するのは国民が選挙によって選んだ下院議員たちだが、その実態は先述した通りである。
 事実、現大統領は旧大名家の出身なのだ。
 青鈍あおにびのように危機感を持つ者はいる。だが数は少ない。猿族の青年は窓を覆うカーテンの隙間から外を覗う。曇った硝子の向こう側では通りを埋め付くさんとする群衆が大統領の乗った車列が通るのを今か今かと待ちわびている。
 愚衆め。と青鈍は吐き捨てる。
 あの中に一割も、いや一厘でも強い志のある者がいれば全ては変わるはずなのに。
 青鈍は窓から離れ、戸棚に立てかけてあった長銃を手に取った。青鈍の理想に共感する理解者から入手した銃だ。彼らは青鈍の思想に共感を示し、最大限の助力を約束してくれた。資金、武器、情報、青鈍が欲したものは数日のうちに手に入った。
 この長銃もそのひとつだ。青鈍が銃口を覗き込むと螺旋状に刻まれた溝が見える。
 これは煌土国ではまだ出回っていないライフルという銃だ。この長い銃身を弾丸が通り抜ける際に、螺旋状の溝が回転運動を引き起こす。簡単な物理の問題だ。運動する物体は運動力を失わない限り、同じように動き続けようとする。回転しながら真っ直ぐ進もうとする銃弾は空気抵抗を受けるが、回転によって抵抗こそが逆に弾丸を安定させる要因となるのだ。
 理屈は学生の青鈍にでも分かる。だが煌土ではまだ実用化の段階にはない。
 もしかすると試験的に導入はされているかもしれないが、青鈍の知るところではなかった。
 少なくとも大統領を護衛している警護兵はライフルを警戒していないように思える。
 青鈍には従軍経験が無く、このライフルを手にするまで銃を撃ったことがなかったが、この一ヶ月の間に百メートルほど離れていても必要な範囲に弾を当てられるようになった。
 百メートル離れた移動する目標を必ず撃ち殺せる、とは言わないが手傷を負わせる自信はあった。
 そしてこの部屋から街道の中心点までは五十メートルも無い。
 警備兵は街道沿いに群衆に目を光らせている。襲撃者がいるとしてマスケットを撃ってくる可能性は考慮しているようだったが、ライフルまでは考えていないようだ。
 でなければ通り道の左右の建物は封鎖されていたはずだ。
 つまり、殺せる。この国の最高意思決定者を。
 現大統領が諸悪の根源だというわけではないが、この国を変える一撃になる。少なくとも青鈍はそう信じている。協力者もそう言っていた。
 歓声が大きくなって、大統領が近付いてきたことを青鈍に伝えてくれる。ライフルを持った彼の手に震えは無い。強い信念が彼を支えている。青鈍は窓際に向かった。

 こんこん。と――、

 部屋の扉を叩く音がした。青鈍は無視することにする。しかし――、

 こんこん、こんこんこん。

 がちゃりがちゃりと扉の取っ手が錠前に遮られる音がする。
「ねー、ねーえ、いるんでしょう?」
 それは若い女の声だった。
 青鈍は部屋の隅に目線を向ける。そこには首を切られて血だまりに倒れ伏した若い男性の遺体が転がっている。
「ごめんってばぁ、昨日言ったことは謝るからぁ! ねえ、開けてよ。ねーえ!」
 青鈍は死んだ青年が倒れている傍の戸棚の上に伏せられた写真立てがあることに気が付いた。
 そっと起こすと、先ほど青鈍が殺した青年と、彼に寄り添う若い猿族の女性が並んで撮られた写真があった。
「愛してるからぁ。昨日あんなこと言ってごめんってばぁ、ねぇ聞いてる? 聞こえてるんでしょぉ? 開けてよ! せめて顔を見て話ししよって。ねえ!」
 女の声は甲高く、だんだん音量も大きくなっていく。すぐに扉を破られることはないだろうが、人が集まってくるのは青鈍の本意では無い。捕まる覚悟はしていたが、可能であれば逃げおおせたい。
 青鈍は問題に対処することに決めた。扉の鍵を開け、女を室内に引き込み、口を塞いで首を掻き切ることにする。青年を殺した刃物を手に、青鈍は扉に歩み寄って、自然とのぞき穴を塞ぐ金具を指で押し上げて覗き込んだ。
 そこに見えたのは廊下に立つ一人の女性だった。だがその姿は青鈍の想定とは異なっていた。頭の上に大きな耳のある金髪に碧眼。少女とも大人の女性とも言えるような女ではあったが、猫族だった。彼女は満面の笑みを浮かべ、手にした巾着袋に手を伸ばすと、手を引き抜き――、

 のぞき穴に顔を寄せていた青鈍の瞳に最初に飛び込んできたのはのぞき穴の硝子だった。それは砕けながら彼の水晶体に突き刺さり、遅れて鉛玉が瞳に到達した。衝撃で硝子体は破裂し、銃弾は網膜を破り、視神経を辿るように脳に到達した。前頭葉から右側頭葉を抜け、後頭葉の向こう側で、威力が減衰した銃弾は青鈍の頭蓋骨を割ることが出来ずに跳ね返った。
 脳みそをズタズタに引き裂かれた青鈍の頭部は後ろに倒れたが、力を失った肉体はその姿勢もあって前に、扉にもたれかかるように倒れていった。

    ☆★☆★☆

 扉の向こう側、部屋の外、廊下では金髪の女が硝煙を上げる拳銃を手にした赤い巾着袋に入れ、指先で巾着袋を大きく回しながら歩き出した。
「ほんっとーに、心から愛してる。今でも君を愛しているよ、青鈍くん」
 花が綻ぶような可憐な笑顔で、鼻歌でも歌うかのように音頭を取って、足取りも軽く女は廊下を歩いて行く。
「君の境遇に心から同情する。心から共感する。本心だよ。本心だとも。君のために流した涙は嘘じゃない。辛かったろう。悲しかったろう。悔しかったろう。何よりも正義のための怒りがあったね。理想のために犠牲を厭わない崇高な理念があったね。解る。よぉーく、解るよ。青鈍くん。この国は腐っている。上から下まで。何から何まで、理想に排泄物を塗りたくってできた国だ。まさに汚泥だ。腐臭を撒き散らす化け物さ。そんな糞みたいな国……でなくちゃあ困るんだ」
 建物を出れば外は大統領の行進を見ようと集まった群衆が人だかりを作っていた。女はその中に紛れ込む。立ち去るでも無く、まるで無害な一市民としてそこに残った。
「政治家、活動家、企業、犯罪組織、みぃんな泥水を啜ってるのさ。黄金色の泥水をさ。ごくごく、ごくごくって。ああ、悲しいねえ。悔しいねえ。君の怒りを私は愛するよ。ありがとう。死んでくれて。私に今夜の糧をくれて。今夜は神にでは無く、君に祈りを捧げるよ」
 そして大統領の乗った車列がゆっくり、ゆっくりと進んできた。人々が熱狂の叫び声を上げる。女も声を合わせて手を振った。
 その後、大統領が無事大通りを抜けていった後、彼女の巾着袋がいつの間にか少しだけ重くなっていた。中に手を入れて探るといくらかの金と紙片が一枚、それから銃弾の補充が入ってた。
「うへぇ、監獄に戻れって“宝玉”だかなんだか知らないけどさあ。私を愛せる程の男がいるとは思えないなあ。私はいつでも愛してあげるけど、いつか愛されたいなあ」
 猫族の娘はハァと熱っぽい息を吐く。
「全てを出し切って、敵わなくて、押し倒されて、そして彼のモノが私を貫くの。深く。深く。取り返しの付かないところまで。そうしたら言ってあげるんだあ。もう私の全ては貴方のモノだよって。誰にも奪えないよ。ずっとずっと貴方と一緒に居てあげる。きっと皆も私と一緒にいるから、ね。ちっとも寂しくないよ」
 愛について語る彼女は見た目以上に幼く見える。しかしその表情はまるで泥のように変化した。
「はあ、あんな野蛮な連中と一緒に行動するとか、まあ、鉛丹サマには借りもあるし、今回は我慢我慢」
 猫族の娘は東に向け歩き出す。
 求めるのは“宝玉”ではなく、愛であった。
                

登場人物

青鈍

青鈍 あおにび

「この国は滅亡に瀕している」

煌土国の理想に燃える猿族の学生。腐りきった煌土国の未来を心から憂いている。国家を滅亡の危機から救うには今すぐ人々が行動を起こさねばならないと考え、最初の一矢となるべく銃を手に取った。その腕前は30メートルなら移動目標であっても必中。静止目標であれば50メートルでも撃ち抜ける。

枯草

枯草 かれくさ

「奪われた祖国を買い戻せる。宝玉さえ手に入れば」

"組織"の構成員。煌土国ではほとんど見られない狼族であり、聴力に特に優れ、主に潜入、盗聴、暗殺を担う。"宝玉"の価値を知っており、組織を裏切ってでも手に入れ、奪われた祖国の森を買い戻すことを画策する。純粋な強さは狼族としては中の上程度だが、深い思考と強い意思で格上を屠ってきた。

丁子染

丁字染 ちょうじぞめ

「美味しい仕事だからさァ」

"組織"の構成員。過去に鉛丹と仕事をしたことがあり、一定の評価を受けている。お調子者で軽薄だが、殺しの腕前は確か。鉛丹が彼に"宝玉"確保の戦力として参加を依頼し、丁字染は良い仕事だから狼族の仲間にも一枚噛ませてやろうと純粋な善意で枯草らを誘った。

縹

はなだ

「確かな筋の情報だ」

"組織"の構成員。枯草からその知能を信頼されている狼族。特に罠に鼻が利き、彼を先行させれば仲間が罠にかかることはない。狼族であるがため、知能を活かすような仕事は回ってこないが、鉄火場でもその知能でこれまで生き延びてきた。非常事態では頼りになるが、非常事態になる前に相談して欲しいと思っている。

二藍

二藍 ふたあい

「話を……聞こうか」

"組織"の構成員。殺しに限らず、暴力が必要な場であれば何処にでも呼ばれる狼族の武人。凄まじく強いが、物事をあまり考えることはせず、"組織"の命令に粛々と従っている。あまり頭が良くないということに自覚があり、できる限り口を閉ざすようにしている。

鉛丹

鉛丹 えんたん

「あちゃあ、ありゃ俺より強いわ」

"組織"の古株。猿族の老人。かつては人斬り鉛丹と呼ばれ恐れられていた剣豪。幹部ではないが、組織内で強い影響力を持ち、幹部級でも彼には一目置いている。個人的な要件であっても、組織の構成員を徴募することが許されているが、実際にはその人員の上司にきちんと話は通す。組織からの命令を受け"宝玉"を狙っているが?

露草

露草 つゆくさ

「愛するから、愛してね」

"組織"で育った根っからの工作員。猫族の特性を活かし、潜入、工作、暗殺と何でも熟す。ただし仕事の選り好みが激しく、気の乗らない仕事は断わることも多い。一方で愛する男を殺すことは金を払ってでも行う。鉛丹には借りがあり、今回の任務を断れなかった。"宝玉"にも金にも興味は無い。彼女はただ愛されたいだけだ。

黒檀

黒檀 こくたん

「守るべきものを間違えるな」

"宝玉"の行方を知っている可能性のある猿族の老人。かなり昔から山奥で仙人のように暮らしている。十年ほど前に子を拾い、その時だけは困り果てて山を下りてきたという。翠嶺郷にて子を預けようとしたが、諭されて自ら育てることに決め、山中に戻った。

月白

月白 つきしろ

「独りぼっちは、寂しいよ」

黒檀が十年ほど前に拾ったという虚な瞳の子ども。猿族に似ているが、その肌はあまりにも白く、尻尾もない。毛も薄く、まるで猫族のようだが、耳は側頭部にある。その見た目や口調から大人しい娘だと思われがちだが、黒檀について野山を駆けまわったため、運動能力はかなり高い水準にある。

香染

香染 こうぞめ

「命を捧げます。人生を捧げます。だから――」

黄都で火付盗賊改方に就く猿族の男性。病弱の娘がおり、根治治療には莫大な費用が必要だが、妻に財産を全て持ち逃げされており、日頃の治療費にも苦心している。近年は放火が減ったことによって火付盗賊改方の待遇も悪くなり、転職を真剣に考え始めた。

霞

かすみ

「お父さん、今日はお休み?」

香染の娘。死病に冒されており、もはや布団から起き上がることもできず、死期が近い。彼女は残された時間を父と過ごしたいと望んでいるが、父が自分のために仕事に奔走していることを知っており、我儘を言い出せずにいる。

紅梅

紅梅 こうばい

「あんたがしっかりするんだよ」

香染らと同じ長屋で暮らす猿族の女寡。大戦で夫を失い、家を手放して、長屋住まいとなった。霞を小さな赤子の頃から知っており、洗濯屋を営む一方で、僅かな金子で霞の看病を手伝っている。

新着情報

本日より第二章「神は救わない」公開開始です!

本日よりカクヨムにて公開開始です。よろしくお願いします。

終章(36話目/全36話)執筆完了。これにて全編執筆完了。校正作業に入ります。

第四章第十話(35話目/全36話予定)執筆完了

第四章第九話(34話目/全36話予定)執筆完了

第四章第八話(33話目/全35話予定)執筆完了

キャラクターイラストをすべてNovelAI製に入れ替えました。

第四章第七話(32話目/全35話予定)執筆完了

第四章第六話(31話目/全34話予定)執筆完了

第四章第五話(30話目/全34話予定)執筆完了

第四章第四話(29話目/全34話予定)執筆完了

サイト大幅改装しました。(4日ぶりn度目)

登場人物に青鈍を追加し、トップページがいくつか変更されています。

レイアウトはこれで完成(予定)です。画像を全て圧縮処理しました。エラー修正対応はします。

第四章第三話(28話目/全34話予定)執筆完了

トップページを大幅に改装しました。(4日ぶり)

初期画面の鴉の動きを変更。なおボタンはまだ押せません。

第四章第二話(27話目/全34話予定)執筆完了

第四章第一話(26話目/全34話予定)執筆完了

トップページを大幅に改装しました。

猿族の登場人物イラストを生成しなおしました。

第三章第八話(25話目/全34話予定)執筆完了。三章書き上がりました。

第三章第七話(24話目/全34話予定)執筆完了

第三章第六話(23話目/全34話予定)執筆完了

第三章第五話(22話目/全34話予定)執筆完了

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